2010年11月20日

ビトルボファイル#01マセラティカリフ:見果てぬ夢

0575karif08.jpg

1988年.発売当時のパンフレットには,こんな意味のコピーが記されていたという.

“カリフ. それは誕生の瞬間に
コレクターズアイテムとなることを運命づけられた生粋のスーパーカー”

カリフはビトルボラインアップの中で初めて,マセラティ伝統の“風”に名前を与えらしもの.
その名はソマリアに吹く季節風に由来する.

パンフレットはなおも続ける.
“カリフ. それは稀代の公道の「狼」.
 カリフはあたかもレーシングドライバーとなったかのような走りをあなたにもたらすだろう.
 カリフに乗る喜びは,数百頭・数千頭の力あふれるじゃじゃ馬を乗りこなすことに似ている.
 カリフは’70年代のボーラ以来,最速のグランドツアラーである.”

“カリフの心臓部は,マセラティのレース用エンジンに
 排ガス・騒音規制に対応するためのデチューンを加えたV6・2.8L.
 最高出力は285馬力.最高速度は255キロ.0-100km加速は5.9秒をマークする.”
 
CG誌のテストデータによれば,3200GTの0-100が5.7秒である.
アレッサンドロの言を信じれば,
カリフはちょうど10年を経て,彼のコントロールを離れた後に登場した
“最後のビトルボ”と同等の性能を有していた事になる.

ちなみに,1988年6月のMotor誌のロードテストによると,
その最高出力は250馬力,最高速度240キロ,0-100加速6.1秒.
1989年9月のCG誌のロードテストによれば,
最高出力は未計測,最高速度216キロ,0-100加速7.7秒.
Motor誌の0-100は別として,望まれる記録は達成されていない.
いずれも雨天などを理由に“参考値”とされているのは偶然か.

そうそう,CG誌によれば,
指示速度100キロ時で実速度93キロ
 同  140キロ時で 同 131キロ
 同  200キロ時で 同 186キロ だそうである.
オーナー,オーナー候補の諸氏は記憶されたし.

カリフは“スーパーカー”であるにしては,あまりにも小さい.
4043mm×1714mmという全長全幅は,
素っ頓狂な表情で街中を闊歩するあのニッサンジュークより,
全長で92mm,全幅で51mmも劣るのだ.
あるいは,4020×1720という,最新のマツダロードスターとほぼ同じサイズである.

ロードスター……
そう,いうなればカリフはスパイダーザガートのハードトップバージョンに過ぎない.
デ・トマソにこのアイデアを与えたのは Mrs Valdevit だという.
この“Luisa Valdevit”なる人物については,かなうなら今後調べてみたいと思うが.


ミストラル,ギブリ,カムシン……
歴代の風の名を冠するマセラティの遺志を引き継ぐものとして
1988年のジュネーブモーターショーにデビューさせたカリフを,
“そのようなハイパフォーマンスクーペにはいささかふさわしくない姿で送り出す”
(マセラティ公式HPより)ことになったアレッサンドロの心中はいかばかりであったろうか.

1988年はデ・トマソがマセラティの株式の49%をフィアットに譲渡した年でもあった.

これも公式HPの表現を借りれば,
それは“no-nonsense(現実的)”なアプローチであったのである.
凋落の道を辿りつつあるアレッサンドロが,
自らの選んだ民主化路線とは相反する,
真のスペシャリティカーメーカーとしてのマセラティの見果てぬ夢を
具体的な形で歴史に残そうと努力する.
その申し子がソマリアの風,カリフであった.

1988年当時,わが国ではガレーヂ伊太利屋からリリースされていたカリフには
745万円のプライスタグが付されていた.
事実上全く同じエンジンを搭載した5座クーペ222E 5速MTは620万円.
ヨーロッパでの価格を反映してか,その差は100万円を超える.

この価格設定は一見不当にも思える.
しかし繰り返しになるけれど,
カリフは“当時もっともパワフルな2.8LV6ツインターボを奢り,
最高出力285馬力,最高速度255キロ以上を記録する(公式HPより)”
特別なバージョンなのである.

たとえその後の排ガス規制により,
多くの市販モデルはその性能を達成し得なかったとしても,である.

2400mmのショートホイールベースに
(公にはされていないけれど)
スパイダーと同じくザガートがコーディネートしたハードトップによって
強靭な剛性を与えられた スーパースポーツ,マセラティカリフ.

歴史の狭間に送り出された221(or 222 ?)台の“自動車という名の宝石”達は,
アレッサンドロの予言通り,
エンスージアストの手によって後世に遺されて行くに違いない.
karif_sun.jpg
今なら2台並んだカリフにあえる奇跡のお店.
マイデポロゴ.jpg
http://www.microdepot.co.jp/
(冒頭の写真は同社HPより転載させていただきました)

記述の多くは下掲の書籍によりました.

posted by いつかはシャマル at 06:00| Comment(0) | ビトルボマセラティファイル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする