2013年08月26日

仏頂面

「仏頂面」の字面には「仏」の文字が入っていることにふと気付いた。

調べれば、仏頂は仏様の頭の上部の意であり、
大変有難いものを意味すると言うではないか。

例えばこちら、竜泉飛不動尊HPの解説。
http://tobifudo.jp/newmon/jinbutu/bucho.html

身近な人のいわれのない仏頂面に辟易した時には、そっと心の内で
目の前の有難い仏頂尊に手を合わせようぞ。
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2013年08月24日

クライマーズ・ハイ

言わずと知れた横山秀夫の代表作。

既読の諸兄にはなにをいまさら、であろうが、
素晴らしい、の一言であった。

主人公である壮年の群馬県の地方紙・北関新聞社会部記者、悠木は、
1985年の御巣鷹山日航機墜落事故の発生にあたって全権デスクに指名される。

かつて、自らが叱責した新人記者・望月が、
それを理由に自殺したと責に思うが故、部下を持つことを苦にする主人公。

彼の組織人としての1週間余りの葛藤が、
日航機事故の発生した年、企図したが果たせなかった谷川岳の難所・衝立岩に、
17年を経てアタックするシーンとのカットバックで鮮烈に描かれてゆく。

横山作品は、
人間の「立場」をデフォルメしすぎるぐらいに描写するので、
生臭くなるかと思いきや、
終わってみれば爽やかな読後感を残すことが美点と思う。

本書も(そんなに生真面目な新聞記者がいるかよ(失礼))と思いながら読みつつ、
気付けば、ラスト手前、若手有望記者佐山の、
「どこへ行ったって、俺たちの日航デスクは悠さんですから」
のセリフに目頭を潤ませる自分がいた。

思えばいまの自分は41歳。

悠木が紆余曲折の末、全権デスクを任されたのは40歳である。

部下、もなにもない、
20年前と同じような仕事をしている自分はいったい何なのだろう、
と思わなくもない。

しかし、ほら、だから組織人の思考は理解できないんだよ、と思うのはこの一節だった。

「どの命も等価だと口先で言いつつ、メディアが人を選別し、等級化し、
 命の重い軽いを決めつけ、その価値観を世の中に押しつけてきた。」

これは、悠木が自らが死に追いやったと責を感じている望月の従兄妹が、
望月本人に対する新聞社の対応と、日航機事故の被害者に対するマスコミの扱いを比して、
その落差を悠木に訴えるシーンの後で記述された文言であるのだが…

目にした瞬間には、この表現そのものが病理を映すものと思われた。

メディアが勝手に人の命の軽重を主に功利的な観点から決めつけてきたのは本当だろうが、
俺は別に、その価値観を「押しつけられ」てはいないよ、
もし、元記者である著者が、
マスコミが庶民に価値観を押しつけうる存在であると考えているのだとしたら、
その考えにこそ、救いようのない違和感を感じると思ったのだが、
もちろん、数行でそれは誤解だと知った。

横山は、それもこれも承知の上で、
諸々の困難にぶちあたっても、
「初心」を胸に生き抜く人々を主題としているのだ。

組織人、家庭人としての矜持を今一度振り返らせてくれる名作である。

俺には手遅れだけどね(笑)


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2013年08月14日

貫井徳郎『後悔と真実の色』

先の日記に、横山秀夫『ロクヨン』についてこう書いた。

(登場人物の心の)葛藤の次元が、
嫉妬やら出世欲やら金銭欲やら、
そういう現世にありふれたものとはいささか離れたところに設定されていることも、
読後の爽快感を誘う

これは、その直後に読み始めた『後悔と真実の色』が念頭にあってのことである。

横山作品と比べ、貫井の警察小説は(ゆえに「暗い」との評もあるようだが)、
身近な欲望からスタートする。
家族のために金銭が必要だから出世したい、という警察官や、
ぱっと見現実離れと思うほど爽やかかつ社内でもエースと目されているけれど、
その実ギリギリで嫁ともうまくいかず、人の良い彼女に逃げている本庁刑事、
彼らの心理描写、が冒頭から延々と続くわけだ。
艶っぽいひと休みの場面もなく。

正直、これはなんなんだ、と思った。

当たり前のことを当たり前に描いて、何が面白い。
読まされた方は時間の無駄ではないか。

しかし、結論を聞くまで頁を繰る手を止めることはできなかった。

延々と続くネガティブな心理描写は相当読み飛ばしたけれど、
終わってみれば、こっちが本物なのかもしれないと思わされる。
そんな小説である。

『後悔と真実の色』

タイトルも野暮ったいよね〜

二転三転の手に汗握る展開をお好みのミステリーファンにも、
ちょっと人生に息詰まっているあなたにも(俺?(笑))、
お勧めの1冊である。

貫井のベストセラー『慟哭』は、
市立図書館では順番待ちと嫁に聞いたので、密林さんに送付依頼をしたところである。


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2013年08月09日

ロクヨン

久方ぶりに小説を一気に読み通した。

「警察小説」作家としての横山秀夫の名は頭の片隅に残っており、
その作品を、たまたまカミさんが図書館から借りてきたので手に取ってみた。

後で調べれば、病を経て復活した著者渾身の力作という。
さもありなん。娯楽小説としての勢いはもちろん、
自らの来し方行く末を考える上でも、学ぶところ山もりの一篇と言えよう。

概して、ジレンマ、あるいは不条理の中におかれてはじめて、
人は真の自分と向き合い得るものだが、
その意味でも登場人物の内なる葛藤がほぼ破綻なく描き切られていることに脱帽である。

その葛藤の次元が、
嫉妬やら出世欲やら金銭欲やら、
そういう現世にありふれたものとはいささか離れたところに設定されていることも、
読後の爽快感を誘うのであろう。

未読の方があれば、ぜひ一読されたし。



posted by いつかはシャマル at 23:51| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする